前回の記事では、実際にIBから海外大学の医学部へと進学したTCKの先輩講師へのインタビューをもとに、受験対策や学校での様子についてリアルな声をご紹介しました。
今回は、現役の海外医学生である先輩講師へのインタビューをもとに、海外大学医学部と日本の医学部、それぞれのメリット・デメリットを徹底比較します。IB生特有の受験事情や、入学後のカリキュラムの違い、そして将来のキャリアパスについて、詳しく解説していきます。

TCK Workshop プレミアム講師。英国滞在歴20年以上。小・中・高から大学(King’s College London)、大学院(University College London)に至るまで、すべての教育課程をロンドンで修了した「英国教育のスペシャリスト」。 GCSE / A-Levels などの英国カリキュラム指導はもちろん、IB DP Biology等の理数科目、さらに英国大学への出願(UK University Application)サポートまで、現地の実体験に基づいた最高レベルの指導を提供する。
この記事は、TCKworkshop主催のウェビナーを基に作成しています。TCKworkshop公式Youtubeチャンネルでは、指導経験豊富な講師が実際の指導を通して蓄積した帰国生の受験、英語学習などについての情報をお伝えしておりますので、ぜひご覧ください。
医師としての「ゴール」から逆算する進路選択

医学部を選ぶ際、偏差値やランキングだけでなく、「将来どのような医師になりたいか」「どこで働きたいか」という長期的なビジョンを持つことが重要です。今回インタビューした先輩講師は、日本国籍を持ちながらも、最終的に海外の医学部への進学を選びました。その決め手となったのは、将来の明確なキャリアゴールでした。
「国際機関で働きたい」なら海外が近道
先輩は、「将来はWHO(世界保健機関)やユニセフといった国際機関で、医療政策作りや小国医療支援に関わりたい」という具体的な夢を持っていました。このようなグローバルなフィールドで活躍するためには、英語で医学を学び、国際的に通用する医師免許(Medical License)を取得することが強力な武器になります。
また、海外の大学には、医学部在籍中に1年間休学して別の学位(公衆衛生学など)を取得できる「Intercalated Degree」のような制度が整っている場合が多く、先輩もこの制度を利用して研究に没頭しています。このように、臨床医としてだけでなく、研究者や政策立案者としてのスキルを早期に磨きたいと考える場合、海外医学部の柔軟なカリキュラムは非常に魅力的です。

「なんとなくカッコいいから海外」ではなく、「なぜ海外でなければならないのか」を言語化できるまで掘り下げることが大切です。その理由が固まれば、厳しい受験勉強や異国での生活を乗り越える原動力になります。
日本で臨床医になるなら国内が圧倒的に有利
一方で、将来日本で患者さんを診る「臨床医」として生きていくことを第一に考えるのであれば、日本の医学部に進学する方が合理的です。日本の医師国家試験に合格し、日本の医療制度の中で研修を受けるという「王道のルート」は、キャリアの安定性や就職のしやすさという点で圧倒的なメリットがあります。
先輩も「日本で医師としてキャリアを積むならば、日本の医学部の方が効率やコストパフォーマンスは良い」と断言しています。海外の医学部を卒業してから日本で働くには、日本の医師国家試験受験資格認定という複雑な手続きを経る必要があり、決して平坦な道ではありません。
海外大学医学部 vs 日本の医学部:徹底比較

IB生が医学部を目指す場合、学習内容や受験対策、そして入学後の生活において、海外と日本ではどのような違いがあるのでしょうか。ここでは、3つの視点から詳細に比較解説します。
1. 受験対策とIBとの親和性:一本化か、ダブルワークか
IB生にとって最も切実な問題は、「IBの勉強だけで受験できるか」という点です。
海外医学部(イギリス・ハンガリーなど):IBとの親和性が高い
海外の医学部受験では、IBの最終スコア(または予測スコア)が合否の決定的な要素となります。特にBiology(生物)やChemistry(化学)のHigher Levelでの高得点が求められますが、これは日々のIB学習の延長線上にあります。これに加え、UCATなどの適性検査やインタビュー対策が必要ですが、学習内容はIBのカリキュラムとリンクしている部分が多く、対策を一本化しやすいという特長があります。
日本の医学部:独自対策が必要な「ダブルワーク」の覚悟
日本の医学部でも「IB入試」や「帰国生入試」を導入する大学は増えていますが、その枠は依然として狭き門です。多くの大学では、IBのスコアに加えて、日本語での小論文、面接、そして何より日本の高校範囲の数学や理科(物理・化学・生物)の学力試験を課す場合があります。 日本の理数科目のカリキュラムとIBのカリキュラムは、範囲や出題形式が大きく異なります。そのため、IBで高得点を狙いながら、並行して日本の受験対策も行うという「ダブルワーク」が必要になり、生徒への負担は非常に大きくなります。
先輩の事例では、IBが始まる前までは日本の理科なども勉強していましたが、海外医学部進学を決めた時点で日本の勉強をストップし、IBと海外受験対策に全精力を注ぎました。「両方受ける気があるなら、相当な覚悟で勉強を続けなければならない」というのが、IB生の医学部受験の現実です。

「とりあえず両方」という選択は、どっちつかずになるリスクがあります。日本の医学部を目指すならIBの科目は最低限にし、日本の受験勉強にリソースを割くといった戦略的な判断も時には必要になります。
日本の大学で医学部にIBを使って出願できる大学については、こちらの記事をご覧ください。
2. 学費と経済的負担の違い

医学部進学において避けて通れないのが学費の問題です。
海外医学部(特に英語圏):留学生学費の高騰
アメリカやイギリスなどの英語圏の医学部は、留学生(International Student)向けの学費が非常に高額に設定されています。年間数百万〜一千万円近くかかるケースもあり、6年間の総額はかなりの金額になり、経済的な計画を綿密に立てる必要があります。 ただし、ハンガリーやチェコなど東欧の医学部は、英語で学べて学費が比較的安いという選択肢として近年注目されています。
日本の医学部:国公立のコストパフォーマンス
日本の国公立大学医学部の学費は、年間50万円程度と、世界的に見ても破格の安さです。私立医学部は高額ですが、それでも欧米の医学部に留学する場合と比較すれば、生活費を含めても抑えられるケースが多いでしょう。経済的なコストパフォーマンスを最優先するならば、日本の国公立医学部が最強の選択肢と言えます。
3. 入学後のカリキュラム:臨床重視 vs 座学重視
入学後の学びのスタイルにも、大きな違いがあるようです。先輩の体験談から、興味深い違いが見えてきました。
海外医学部:早期からの臨床と膨大な自習量
海外の医学部では、入学後1〜2年目といった早い段階から病院での実習や患者さんとの関わり(臨床経験)が始まります。座学の期間が短縮されている分、短期間で詰め込むべき知識量は膨大になり、1〜3年目の勉強量は非常にハードです。夏休みも日本より短く、学期中は濃密な学習が求められます。その代わり、実践的なスキルや研究マインドを養う機会は非常に豊富です。
日本の医学部:じっくり学ぶ座学と基礎
日本の医学部は、一般的に1〜4年生までは大学での講義(座学)や基礎医学の実習が中心で、本格的な病院実習(ポリクリ)は5年生以降になることが多いです。段階を踏んで着実に知識を積み上げるカリキュラムになっており、国家試験に向けた対策も手厚い傾向にあります。

海外の医学部は「自ら学ぶ」姿勢が強く求められます。授業時間は短くても、図書館にこもって自習する時間は日本の学生以上かもしれません。能動的に動けるIB生には合った環境だと言えるでしょう。
海外と日本、それぞれのメリット・デメリットまとめ
ここまでの比較を整理すると、以下のようになります。どちらが良い・悪いではなく、ご自身の適性や将来設計に合わせて選ぶことをおすすめします。
| 比較項目 | 海外大学医学部 | 日本の医学部 |
| 将来のキャリア | 英語で国際的に通用する医師免許が取得可能。WHOなどの国際機関や海外就職に有利。 | 日本国内でのキャリアパス・就職が非常に盤石。日本で医師になるなら最短ルート。 |
| IBとの親和性 | IBのスコアが合否に直結するため対策を一本化しやすい。Biology/Chemistryの内容が活きる。 | IB入試枠は少なく、数学・理科の独自試験対策が必要な場合が多い(ダブルワークのリスク)。 |
| 学費(目安) | 留学生枠は非常に高額になる傾向がある(特に英米)。 | 国公立大学は年間約54万円と世界的に見ても安価でコストパフォーマンスが良い。 |
| カリキュラム | 早期(1-2年次)から臨床実習が始まる。座学期間が短く、低学年時の学習密度が極めて高い。 | 基礎医学(座学)をじっくり積み上げる。本格的な臨床実習は高学年から始まるのが一般的。 |
| 入学後の研究 | Intercalated Degreeなど、学位取得や研究に没頭できる柔軟な制度が整っていることが多い。 | 研究医コースなどはあるが、基本的には医師国家試験合格に向けたカリキュラムが優先される。 |
| 注意点 | 卒業後、日本で医師として働くには厚労省の認定審査が必要でハードルが高い。 | 日本の医師免許だけで海外へ進出(臨床留学など)するハードルは年々上がっている。 |
まとめ
IB生にとっての医学部選びは、単なる大学選びを超えて、「どこで、誰のために、どのように働きたいか」という人生の選択でもあります。
- ゴール設定:国際機関や海外での活動を夢見るなら海外、日本での堅実な医療活動を志すなら日本。
- 受験戦略:IBの強みをそのまま活かせるのは海外。日本を選ぶなら、IBとは異なる独自の理数科目対策を並行する覚悟が必要です。
- カリキュラム:実践と自律的な学習を好むなら海外、体系的な積み上げを好むなら日本。
どちらの道を選んでも、IBで培った「探究心」や「やり抜く力」は必ず医学の道で活かされます。TCK Workshopでは、IB対策と並行して、海外・日本両方の医学部受験をサポートできる体制を整えています。「今の自分の成績でどちらが現実的か?」「いつから準備を始めれば間に合うか?」など、具体的なお悩みがあれば、ぜひ一度ご相談ください。
関連記事
医学部受験やIB学習について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にすることをおすすめします。

