• 漢字の読み書きはどれくらいできていればいいの?
  • 英語はどれくらいできていればいいの?

というご相談はよく頂きますが「計算力ってどれくらい身についていればいいの?」という質問はあまりいただきません。

漢字も英語もゴールがないように、計算力にも明確なゴールはありません漢字と英語と同じくらい、計算力は人生にとって重要なスキルだと私は考えています。

計算ドリルを使って頑張って計算練習を続けている多くの学生は小学生で、中学生になってからは、学校の勉強をしていれば自然と計算力が身につくという理由で計算の練習自体はあまりしない人が多いようです。また、計算練習のような単調な反復練習を子供が嫌がりだすのも中学校に入ってからが多いような印象を受けます。

嫌ならやめてしまえばいいと、多くの学生さんは中学以降、計算練習をすることを止めてしまいます。確かに、数学を勉強していれば、問題演習が計算の練習も兼ねていますので大きな問題はないというのは確かです。しかし、海外の学校などに在籍し、日ごろから電卓の使用に慣れてまったく計算をしなくなってしまうのは非常にもったいないことです。計算力の低さが仇になって希望の大学にいけなかった、なんて話もよく耳にします。

意外と大切な計算力。どこで差が生まれてしまうのでしょうか?

中学数学での基礎計算力が命運を分ける!

小さい頃から公文やソロバン教室、塾に通ったり、家庭教師をつけているかどうか。これらの点が、基礎的な算数の知識・計算能力の向上に役立つことは勿論ですが、しかし、基礎計算力の維持、つまり「大学入試時にどうなっているか」という点にしぼって言うのであれば、「中学数学」もしくは海外の「Algebra & Geometry」を、どれだけ根詰めて勉強したかが決定打となるケースが多いように思います。

小学生の間に身につけられる計算力は、中学校になってからでも十分身につけることが可能です。むしろ中学校から習う「方程式」をどれだけしっかりと理解し上手に扱えるようになるかが重要で、この過程の1~2年間が計算力を身につけていくうえでのターニングポイントとなるのです。これが上手くできる人は、たいがい大学入試時に数学で嫌な苦労はしないように思います。

中学校の数学はそれ以降のベースであり、その上に高校数学の学習が成り立っているわけですから、ここがボロボロだとそれ以降も当然できるようにはなりません。

最低限必要な計算力は身につけた上で電卓を使おう!

海外であれば、中学生の頃から電卓を使用することを前提に問題が作られている(筆者としては、これが問題だと感じています。なぜある程度の計算力が身についた高校からにしないのか……納得のいく説明に出会ったことはありません。)ため、多くのお子様は「計算は時間の無駄」「計算は最低限できれば良い」と感じているようです。

何より親が大人になって「計算力は別に大してなくても苦労しない」と実感しているからこそ、子供に計算練習をさせても……と思いがちで、せっかく子供が計算練習に積極的でも、「好きなら続ければ? でもそれより英語勉強してよ」という冷めた目で見てしまう、なんてケースもあるのではないでしょうか。

どこでどんな職業につくかにもよりますが、英語より数字に強いことが求められる職種も決して少なくありません。ずば抜けた暗算力や計算センスを磨かなければ駄目!ということが言いたいわけではありません。ただ、「最低限の計算力は、数学が嫌いだろうが苦手だろうが、身に着けておくと将来的に便利である」ということで、ある程度しっかり数字を扱う能力は、仕事のことをおいたとしても、日常生活を行ううえで有用になるはずです。

  • 17+19が暗算でできない
  • 9×12が暗算でできない
  • 0.1×100が電卓を使わないと分からない
  • ½ +⅓ が暗算でできない

何も3桁同士の掛け算を2秒で暗算して欲しいというわけではありません。上記のような、易しい計算問題についてのことで、このくらいの計算はパパっと頭の中で出来た方が確実に有利に働きます。例え電卓の使用が許可されていたとしても、この程度の計算であれば、電卓のキーを押す時間の分だけ電卓の方が余計に手間で、暗算の方が早く済ませることができるでしょう

目標から逆算してやるべきことを考えよう!

「いやぁ、これは私もできないよ。」というお母さんお父さんもいらっしゃるのではないかと思います。あまり使いたくない言葉ではありますが、大人はまだ、いいのです。勉強が本業であり「大学に行きたい!」と言っている高校生が、上記のような簡単な計算も難しく感じているというのが特に問題になるのです

日本の学校に通い、電卓を使わずに試験を受けてきた日本の学生さんからすると驚かれるかもしれませんが、実際に指導していると、小学生ではなく、海外の現地校やインターに通っている高校生で、これらの計算に苦労するという方はたくさんいます

当然ですが、このような学生さんはSAT Mathの準備の時に相当苦労しますIBやA-levelの数学も難しいでしょう。

私が日本の受験生を指導していた時、大学生になろうという意思のある高校3年生であれば、偏差値40-50程度の生徒さんでも、多少計算が遅いということはあっても、前述のような計算が覚束ない人に出会ったことはありませんでした

海外のカリキュラムで数学を教え始めてからはこの常識は覆りました。

しかし、こういった計算が苦手な学生さんでも、しっかりと計算問題の演習を積み重ねて特訓すれば、基礎的な計算力を身につけることは決して難しいことではありません。単純な作業ですので、センスも才能もいりません。誰もができるようになるのです。

うまくやり過ごせば、本当に分数の計算すら覚束ない状態のまま高校3年生までの数学を済ませることもできてしまいます。SATやACTで少々痛い目には会うわけですが、これらのスコアが悪くてもいける大学だって決してないわけではありませんから、確かに青ざめるほどの問題でもないのかもしれません。実際、計算が苦手だから頭が悪い、ということはありません。ただ、アメリカのように計算をしなくて良い環境とカリキュラムの編成が子供にとって望ましいかということは疑問に思います。

とはいえ、どこでも通用するくらいの数学・計算の能力を持つ学生さんはアメリカにだって大勢います。理解のある親御様のほとんどが家庭教師などをつけて、学校とは別で算数や数学を学ばせていることを見れば、やはり学校だけの勉強では目指している目標には届かない、といった暗黙の了解があるようです。

「日本の数学は考える力が身につかない」というのは本当か?

ここからは毒舌でいきますが…

「日本の数学はクレイジーだ。ロボットのように反復練習をしているだけで、考える力や思考力は彼らにはない。もっと海外みたいにクリエイティブで自分で探求心や考える力を身に付けないと」と仰る方々もいらっしゃいますが、私はこのような意見には懐疑的です。

反復演習は思考力を育てるための土台作りです。土台もなしに、いきなり発展・応用問題に取り組んだところでその効果は望めません。実際、海外の数学では計算よりも途中過程を説明するExplainとかWhy…とかShow that…などといった問題が多いわけですが計算ができない代わりにこういった能力に高いのか?というと、計算ができない学生さんはこういった問題も苦手な場合が多いように感じます。

過去に1000名近く算数や数学の学習をお手伝いしていますが、計算力が著しく低いけど数学や理科で自分の考えを説明したり表現することが逆にとても長けている、といったパターンの方に出会ったことはありません。(他の科目や能力に秀でているというケースはよくあります。ここでは数学に限った話です。)

一つ一つの過程を理解し説明する練習は計算練習で身にきます。Explain~といった問題も、結局はある程度の計算力が身についていないと難しくなってしまうのです。

「海外では過程を説明する力を重視していて細かい計算ができるできないは関係ない」という意見も散見されますが、私はこの考えには賛同しかねます。数学は全世界共通です。海外でも一定以上の計算力を持っていることが前提とされていることには変わりなく、ただ、答の正確性だけでなくそれ以外の評価軸をも持ち合わせているという点に違いがあるのです。

日本の数学も同じです。特に日本の大学入試で記述式の数学問題は、答えが正確であることの重要性に加えて、記述においてもかなり高いレベルを求められますし、難関校であれば何よりまず問題を解くことが難しいのです(これはクレイジーと言われてもしょうがないと思うくらい)。

海外で学んだ生徒も日本で学んだ生徒も思考力の高い人間はやはり皆一定の計算力を備えている場合がほとんどです。優秀な学生さんも多く見てきましたが、先に挙げたような計算は瞬殺です。

計算力は努力と学習習慣の賜物なので数学が得意・苦手といった意識とはまったく別の問題です。やったらやった分だけ絶対にできるようになる、学習の中の達成難易度としては最も低層の部分であって、誰もができるようになるものなんです。

そう。だから計算は最低でも小数、分数、そして(超)簡単な方程式は暗算でもできるくらいの計算能力が最低限身に着けて欲しいと思います。

海外で中学校数学をさぼると、小学校の時は気にならなかった計算力も驚くほどに錆びつきます。前述の、

  • 17+19が暗算でできない
  • 9×12が暗算でできない
  • 0.1×100が電卓が無いとわからない
  • ½ +⅓ が暗算でできない

というような状態になってしまいます。

海外現地校やインターで、中学校の数学がやたらゆったりだな……と感じている場合は黄色信号です。アメリカのカリキュラムはHonorsやAPでも取っていない限り、高2までゆったり進んでいきます。決して高いレベルではありません。気付けば手遅れになってしまっているというケースも多くあります。(それに比べてIGCSEは日本に近しいレベルだったり学年ごとの難易度の傾斜が上手に作られています)

大学準備見据えて中学の間は数学に力入れることは後々何倍になって返ってくるくらい価値のあることです。是非、「たかが計算……」などとは思わずに、海外でもしっかりとした計算力を維持していっていただきたいと思います!

計算力の重要性!
  • 計算力はすべての数学スキルの土台!数学的な思考力・記述力をつけるためにも、まずは最低限の計算力を身につけよう
  • 計算力のターニングポイントは「中学数学」や「Algebra & Geometry」の時期にあり!方程式の概念をしっかり身につけ簡単な暗算はできるようにしておこう